この辞典の利用法

一、利用者(出身地別利用法)
、大分県人でない人
 大分県人でない人や一度も大分地域に居住した事の無い人は、本書をいわゆる辞典の概念で使用しよう
 とすると、余りの文化の違いに大きな戸惑いを覚えるに違いない。
 従って辞書本来の目的として使う前に先ず一般図書(読み物)を読み下す如く全体を通読することをお勧め
 する。そうすることで「大分話し言葉」の概要を把握でき、また通読にも堪えうる内容にした積もりでもある。
 また、本書はアクセント、イントネーションについて記していないため、ここに網羅された用語をただ組み
 合わせただけの“俄か大分弁”を話そうとするような大胆な試みを行ってはならない。
 それは似て非なるもの。
 真の大分弁は文字で表わせるほど簡単なものでなく、微妙なアクセント、イントネーションの組み合わせが
 真髄であり、それらを知らずして大分弁を使おうとすることは無謀に等しく、その行為は大分弁・大分文化
 を冒涜するものである。
、由緒正しき大分県人・県外居住者
 青雲の志に燃え、若しくは心ならずも、故郷を離れて異文化の地で一生を終わらんとする人達。
 本書はまさにこのジャンルの人を対象に編纂したものであり、人知れず故郷を思い懐かしむとき、本書を
 紐解くことによってそこに自分のアイデンテティーを見出し、無上の喜びと、安堵感に浸れることであろう。
  県内者
 ここに収録された言語は四十余年使われることなくしまっておかれた、いわば時代による変化の影響を
 受けていない純粋な「大分言語」を記憶の彼方から拾遺したものである。
 これら用語の発祥の地に今なお飽きること無く営々と住み続けることの出来る人は、それが時代と共に
 現代どのように変化しているのか比較する楽しみを享有し、またその義務を有している人でもある。

二、見出し語
、見出し語(用語)の収集地域
 幕藩体制下の大分・豊前豊後の国は八つの藩と天領および飛び地等で細分化され小国分立の状態が
 長い間続いた。この間、度重なる移封が行われ、為政者集団の移動も頻繁であった。
 これは、大分全域にわたって共通する言語の醸成を妨げるものであり、今もって厳密な意味での大分の
 「お国言葉」というものは無いように感じる。
 強いて類似した言語・用法で区分すれば、大きく三つの言語圏に区分されると言われている。
 (宮崎・日向と接する県南地域・・・臼杵、津久見、佐伯等
  瀬戸、周防沿岸域・・・大分、別府、杵築、宇佐、中津等
  内陸山間地域・・・日田、豊後森等)
 本書はそのうち、大分言葉としてもっとも特徴を持った言語圏の主として別府、大分地方で使われていた
 言語を中心に収集した。
、収集言語の範囲
 大分の話し言葉の特徴は、言葉そのものの特異さもさる事ながら、状況または会話相手によって同じ言語を
 微妙に変化させ、情景、心情等を的確に表現するところにある。
 本書では特にこの点に留意し、極力「固有名詞」を避け、変幻自在に形を変えて使われる、形容(動)詞、
 副詞、動詞、助動詞、感嘆詞を中心に収集した。

三、表記
、見出し語
 見出し語はふとじひらがなで表わし、品詞を付した(名詞は表記せず)。
 用言のうち動詞には活用型を記した。ただし常に活用形のとおりに変化しない場合も多く、これがまた
 大分言葉の特徴でもある。
、[訳]
 見出し語に続き[訳]として見出し語そのものの意味を標準語をもって記した。
 方言のもつ微妙なニュアンスを共通語である標準語で以ってしては「曰く言い難し」の感が強く、隔靴掻痒の
 もどかしさすら感じる。これを補うために[用例]を記すこととした。
、【用例】
 見出し語が実際の会話の場でどのように使われているかを一例をもって記した。
 (なお、ここで取り上げた例文は利用者の理解を深めるために多様な生活の場を想定し、適当と思われる
  内容を会話文として表わしたものである。
 利用者はその例文と編者の品性とは全く無関係であることを決して疑ってはならない。)
、[解説]
 用例の会話文を標準語で表わした。
 さらに会話文の中で大分に特徴ある事柄が表現されている場合には、その説明を付した。